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ガイドラインサブ解析論文の概要解説②


施設入所者高齢者の日常生活動作と認知機能に対する運動療法の有効性:ランダム化比較試験の系統的レビューとメタアナリシス

 理学療法ガイドライン第2 版では、施設入所高齢者に対して運動療法を行うことが条件付きで推奨されており、日常生活動作(Activities of Daily Living; ADL)能力への改善効果が示されています。今回、より詳細な運動処方への適応を明らかにするために、運動頻度や運動方法で分けた場合の効果について調査した結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します。(Arch Phys Med Rehabil,2022年11月公開

施設入所者高齢者の日常生活動作と認知機能を改善するための運動療法

 施設入所されている高齢者の場合、適切な運動プログラムを実施しなければ、時間経過とともにADL能力や認知機能が低下する危険性があります。ADLと認知機能は、施設入所高齢者の機能予後に影響を与え、死亡リスクとも関連しており、活動と認知機能の低下を防ぐことが重要な課題です。しかし現在まで、施設入所高齢者のADLに対する運動療法の効果は報告されている一方で、認知機能への効果に関しては明らかとなっていませんでした。また、運動プログラムの実施頻度や実施方法の違いが、これらのアウトカムに影響する可能性が考えられますが、特定の条件に絞ったメタアナリシスは実施されていませんでした。そこで今回は、施設入所高齢者への運動療法がADLと認知機能に与える影響について、介入方法の違いも含めて調べました。

系統的レビューとメタアナリシス

 国際的な複数の文献検索サイトで、2018年12月までに公開された論文について、文献検索を実施しました。対象とした研究は、施設に入所している60歳以上の高齢者に対して運動療法(筋力強化運動、バランス練習、歩行・ADL練習、有酸素運動)を行ったランダム化比較試験としました。音楽療法や園芸療法などの運動療法以外の療法プログラムやレクリエーションを提供した研究は除外されました。ADLのアウトカムはFunctional Independence Measureの運動項目(FIM)、Barthel Index(BI)とKatz ADL Scale(Katz)、認知機能のアウトカムはMini-Mental State Examination(MMSE)を採用しました。分析はまず、1次スクリーニングで17,568文献のタイトルと要旨から2人の独立したレビューアにより102文献(対象者1,280人)に絞られ、その後、詳細に文献の内容を確認し11文献が選択され、分析を行いました。

運動頻度は週3回以上、認知機能には集団運動が効果的な可能性

 ADLに対する運動療法の効果を調べるため、FIM、BIとKatzを統合した9件の研究(対象者1131人)を統合したメタアナリシスの結果、施設入所高齢者に対する運動療法はADLに対して有効であり(SMD 0.22, 95%信頼区間 0.02-0.42)、さらに週3回以上の運動頻度が有効であることが示されました(図1)。また、認知機能に関して、10件の研究(対象者656人)を統合しメタアナリシスを行った結果、全体としては有意な効果を示さなかったが、週3日以上の運動頻度、および集団運動において有効であることが示されました(図2)。

今回の研究からわかったこと

 今回の系統的レビューとメタアナリシスにより、施設入所高齢者に対する運動療法がADLに有効であり、さらに、週3日以上の運動頻度はADLと認知機能に、集団運動は認知機能の改善にそれぞれ有効である可能性が示唆されました。施設入所高齢者に運動療法を提供する際、目的とするアウトカムに応じた運動プログラムの選択が必要になるかもしれません。今回の研究では、統計解析に含まれた対象者の身体機能や認知機能が多様であり、高い異質性に寄与した可能性があります。今後、対象者の重症度に応じた研究を実施、または統合することが必要であると思われます。